コラム

中小企業の後継者問題はM&Aで解決できる!

日本が急速な成長を遂げた高度経済成長期に事業を起こし、今日まで継続している経営者の多くは現在60~70代に突入し、引退や世代交代を考える時期を迎えています。しかしながら、帝国データバンク日本政策金融公庫の調査によると、国内中小企業の65.1%が後継者不在であり、60歳以上の経営者のうち50%超が将来的な廃業を予定しています。この内、後継者が見つからないことを理由とする廃業は全体の3割にも迫るとのことです。もったいないことに、たとえ事業が黒字でも後継者難から廃業を選択する企業が多いのです。

このように、多くの中小企業の経営者が悩まされている後継者問題ですが、M&Aにより解決できるかもしれません。事業承継の種類やそれぞれの特徴、大まかな流れから解決の糸口を探っていきましょう。

事業承継とは

事業承継とは、事業を後継者などに引き継ぐことを指します。手法は承継先別に、「親族への承継」「従業員への承継」「M&Aによる第三者への承継」に分類されます。

事業を引き継ぐということは、会社の経営権だけでなく、会社のブランドや信用、取引先、負債なども全て受け継ぐということです。会社の伝統や特許、商標などの無形資産も該当するため、通常の資産相続より複雑で、準備や手続きに時間がかかることが想定されます。

親族への承継

日本では昔から、子供が親の事業を継ぐという慣例がありました。しかし現在では、子供が別の企業に就職して仕事を辞めたくない場合も多く、また子供に経営者としての資質や能力が不足している場合もあります。何より業績悪化への不安から、子供に負担をかけたくないと思う親は多く、親族への承継は減少傾向にあります。

従業員への承継

役員や従業員へ事業承継する場合は、承継される側が社風や経営理念を含めて事業をよく理解しており、取引先や他の従業員の理解を得やすいので準備がスムーズに運ぶ可能性があります。しかし、親族でない人間は資産の相続ができないので、株式や事業資産を買い取るための莫大な資金を個人として用意しなければいけません。贈与という手段もありますが、所得税の課税対象となりますので、やはり承継する従業員に負担を強いることになります。さらに、会社や経営者の保証や担保も引き継ぐことになるため、承継する従業員はかなりの覚悟が必要となるでしょう。

M&Aによる第三者への承継

親族にも社員にも適切な後継者がいない場合、M&Aで後継者を探すという手段が有力な選択肢となります。M&Aとは、「Mergers & Acquisitions(合併と買収)」を略した言葉で、企業そのものや事業の一部を譲渡・譲受したり、複数の企業がひとつになったりする経営戦略です。M&Aというと大企業のイメージが強いかもしれませんが、最近では後継者不在に悩む中小企業の事業承継において積極的に活用されています。国もM&Aによる事業承継の利用を推進しており、公的機関の設置や法整備などを進めているので、今後はM&Aによる事業承継で後継者問題を解決する事例はさらに増えてくるものと予想されます。

M&Aでは第三者に経営を引き継いでもらうだけでなく、オーナーの個人保証の解消や、売却対価による創業者利潤の獲得、経営基盤の強化など様々なメリットがあります。譲受した企業にとっても譲渡企業のブランドやリソースを活用できるなどの利点があります。お互いのデメリットを補い合ってシナジー効果も得られるなど、さらなる企業の成長が期待できます。

M&Aアドバイザーに仲介を依頼した場合は、数ある企業の中から最も適した候補を洗い出して交渉していきます。親族への承継や従業員への承継に比べて、選択肢が圧倒的に多いことも大きなメリットとなります。

M&Aによる事業承継の流れ

後継者問題を解決する手段として脚光を浴びているM&Aですが、「なんとなく不安なイメージがある」「実際に活用したくても方法や手続きがわからない」といった声をよく耳にします。以下にM&Aによる事業承継の手続きの簡単な流れを見ていきましょう。

M&Aの手続きの流れは主に3つのフェーズに分けられます。最初に「検討・準備フェーズ」、次に「マッチング・交渉フェーズ」、最後に「最終契約フェーズ」となります。

M&Aを進めるには、企業の財務状態や税金の取り決め、法律のルールを詳しく理解する必要があります。M&Aは知人の経営者同士で行うことも可能ですが、M&Aの適切な価格の決定や、法律や会計など専門性の高い手続きは難しく、アドバイザーを立てて行うのが一般的です。よって、本項目ではアドバイザーを介した場合の手続きの流れを説明します。

検討・準備フェーズ

最初にすべきことは、M&Aを実施するタイミングを検討し、それまでに企業価値を高めることです。子供や従業員に事業承継する場合と比べて、M&Aを活用して事業承継する際には膨大な時間がかかります。経営者が高齢の場合は、体力の問題から事業運営が困難になる可能性もあるので、早めに事業承継の準備を実施する必要があります。

また、M&Aを有利な条件で進めるためには、なるべく企業価値を高めておくことが重要です。自社の経営状況や純資産、負債などの正確な状況把握を行ったうえで、ブランド力や技術力など無形資産の強化を行ったり、不必要な負債・在庫の削減に取り組んだりするとよいでしょう。特許侵害や訴訟案件などのトラブルがある場合は早めに清算しておきましょう。 企業価値がどのように評価されるのか知りたい方は、「 バリュエーションとは?M&Aにおける企業価値評価の算定方法 」をご覧ください。

マッチング・交渉フェーズ

最初に行われるのが、会社が特定されない範囲の情報をまとめた「ノンネームシート」と呼ばれる資料の作成です。このノンネームシートは主にアドバイザーが買い手企業へ売り手企業を紹介する際に使用され、大まかな会社概要や財務内容などが記載されることが一般的です。

また、ノンネームシートによって譲受を希望した企業には、より詳細な会社概要、財務状況や譲渡企業の強みなどをまとめた企業概要書(IM)が開示されます。この企業概要書などの資料を基に買い手はM&Aを進めるかを判断します。そしてM&Aを進めたい企業が見つかったら「トップ面談」を行います。このトップ面談は譲渡価格などの交渉はしないことが一般的であり、売り手と買い手の経営ビジョン、事業譲渡後の運営方針や経営状況などのお互いの理解を深める場です。

M&Aを進める企業が決まったら、「基本合意書」を取り交わします。この基本合意書ではこれまでの条件などを整理し、譲渡価格やスケジュールなどを定めます。次に買い手が売り手に対して、「デューディリジェンス(DD)」と呼ばれる企業調査を実施します。基本的には、買い手が選定した第三者の専門家が、法務、税務などの様々な観点から調査を行います。デューディリジェンスについては「 M&Aの最大の難関、デューディリジェンスとは? 」で詳しく解説しています。

最終契約フェーズ

基本合意の段階で合意した事項にデューディリジェンスの結果を反映させ、「最終契約」の締結を進めていきます。この最終契約の主だった内容は、取引金額、表明保証、補償条項や解除条件などです。

最後に、最終契約に基づき経営権を移転する「クロージング」が行われ、買い手から対価の支払いなどが行われます。このクロージングをもってM&Aの手続き自体は完了となります。クロージングについて詳しく知りたい方は、M&Aにおけるクロージングとは?前提条件や必要書類、期間について初心者向けに解説」をご覧ください。

まとめ

M&Aによる第三者への事業承継は、後継者問題に悩む経営者の解決策となるだけでなく、譲受企業にとってもメリットの多い選択肢です。また、事業譲渡後に対価を得ることも期待できるため、経営者個人のセカンドライフの資金獲得としても有効な手段です。企業の存続や従業員の雇用のためにも、M&Aによる事業承継を検討することをおすすめします。

弊社ポラリス・アドバイザーズでは経験豊富なプロが事業承継のお手伝いをさせていただきます。お気軽にお問い合わせください。

※事業承継についてご興味のある方は、こちらのコラムも併せてご覧ください。

「事業承継をM&Aで行うメリットとは」

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