コラム

私的再生とは?メリットやデメリット、事業再生の進め方を初心者にもわかりやすく解説

近年の不景気や新型コロナウイルスの影響で経営破綻に陥ったというニュースが、世界的に珍しくなくなっています。会社を再建する方法は、よく耳にする民事再生や会社更生以外にも、いくつか種類があるのをご存知でしょうか。本記事では、事業再生における「私的再生」の手法について解説します。

事業再生とは

「事業再生」とは、企業が経営破綻状態に陥ったときに、そのまま会社を消滅させるのではなく、さまざまな手法で事業を立て直す行為のことです。債務の一部免除や弁済期の繰り延べを図ったり、採算の取れない事業を切り捨て、収益力や競争力のある事業を再構築したりします。

事業再生には大きく分けて、法的手続きによる「法的再生」と、債権者との合意に基づいて裁判所の関与無しに行われる「私的再生」の2種類があります。本記事では主に「私的再生」について解説します。

「経営破綻」と「倒産」の違い

そもそも、「経営破綻」と「倒産」の違いは何でしょうか。「経営破綻」とは、債務の返済が滞り、事業の継続が不可能になる状態を指しています。法律用語ではないので、明確な定義がある言葉ではありません。「倒産」も同様に、明確な定義はなく経営破綻と同じような意味を持っています。倒産しても必ず会社が消滅するわけではないのですが、そのイメージが強く、ストレートなニュアンスを和らげるために、経営破綻と表現される傾向にあります。ちなみに、似たような場面で使われる「破産」は経営破綻に伴って行われる法的整理の手段の一つとなります。

「解散」と「清算」について

会社の「解散」と「清算」についても、正しく理解しておきましょう。「解散」とは、会社の法人格の消滅をもたらす=廃業に至る原因のことです。通常、株主総会の特別決議で会社の解散が決議され、債務の弁済や株主への残余財産の分配など法律関係の後始末をする手続きが行われます。この手続きを「清算」といいます。裁判所によって破産手続開始決定が下された場合は、株主総会無しで解散となることもあります。よって、流れとしては、解散→清算→廃業、または破産→解散→清算→廃業となります。いずれにせよ、会社が解散しても自動的に廃業となるわけではなく、清算手続きが完了することで初めてその会社は消滅したことになるのです。

私的整理とは

私的整理とは、倒産状態にある会社が民事再生や会社更生などの法的手続きを利用せず、債権者と債務者の協議により再建や清算を行う手続きのことです。後述する「私的整理ガイドラインによる私的整理」と、一般の私的整理とに分けられます。

一般の私的整理は任意整理ともいわれ、手順や方法が定められているわけではありません。目的や状況によって手法は変わりますが、概ね清算型と再生型の2つに分けられています。本記事では再生型の私的整理、つまり「私的再生」について詳しく解説していきます。

<「私的整理ガイドライン」による私的整理>

「私的整理ガイドライン」とは、過剰な債務をある程度軽減することにより再生が可能な企業を救済するために、債務者である企業と金融機関が協議し、公正に金融支援を行うために策定された手続き規定のことです。経済団体連合会や全国銀行協会などを委員とする研究会が指針として発表したもので、法的拘束力はありません。

私的整理ガイドラインによる私的整理は、主要債権者が主導で行う企業再建の手続きであり、債権者間の調整に客観的な第三者の関与はありません。つまり、主要債権者が公平な立場で、他の債権者からの同意を得なくてはならないため、主要債権者の負担が非常に大きいものとなります。その結果、私的整理ガイドラインによる私的整理が用いられる会社というのは、金銭面・非金銭面の両方で支援を請け負うことが可能なメガバンクを主要債権者とし、かつ、負担を負ってでも事業再生する価値がある規模の大きさを持つものに限られてきます。

私的再生について

私的再生は、私的整理のなかでも、会社の再建を目的として行う手続きです。法的再生と異なり、裁判所が関与しないので、個別に債権者と交渉し、示談や支援によって再生を果たしていくことになります。具体的には、まず債権者集会で倒産に至った経緯を明らかにします。次に、今後の処理を円滑に進めるために、債権者委員会を設置し、委員長を選出します。その後、債権者との間で債権を照合し、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家の協力を得て「再建計画案」を立案します。債権者全員が再建計画案に同意すれば私的再生は成立するのですが、債権者の数や状況によっては、法的再生より難易度が高いといえるでしょう。

<法的再生とは>

法的再生は、経営破綻に陥った会社を解散させずに事業の再生を目的とする手続きのうち、裁判所の関与下で行われる法的整理手続きを利用する手法のことです。私的再生が全ての債権者の個別合意を基に進めるのに対して、法的再生の場合には債権者の多数決による一定の同意が必要になります。

※法的再生について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

法的再生とは?私的再生との違いや、事業再生の進め方をわかりやすく解説

事業再生の進め方

さて、私的再生の概要についておわかりいただけたところで、大まかな事業再生の手順を解説していきます。私的再生と法的再生のどちらを選択するかで詳細は変わることがありますが、概ね下記のとおりに進んでいくので、流れを把握しておきましょう。

1.実態の把握

まず始めに、会社が現在置かれている状況を正確に把握する必要があります。資産と負債の財務内容や、銀行からの借入状況、現事業における問題点などを確認しましょう。経営破綻に至った原因を解明し、しっかりと分析することが大切です。

2.事業再生の方針策定

次に、私的再生と法的再生、どちらの再生方法を選択するかを決めますが、その前にまずは債務免除を受けることなく全額返済可能かどうかの判断をします。いずれの再生方法でも債務免除が行われるため、債権者にしわ寄せがいくことになるからです。既存の返済計画を見直し、返済期間の延長や月ごとの返済金額の変更をしたとしても資金繰りの改善ができず、債務免除が必要と判断された場合は、どちらの再生手法を使用して再生を図るかを検討し、方針を決定することになります。

3.事業再生計画書の作成

事業再生の再生方法を決めたら、続いて債権者と交渉するときに提示する「事業再生計画書」を作成します。事業再生計画書は、今後どのように経営状況を改善するのかというプランをまとめた書類です。赤字事業を切り離し収益の見込める事業に力や資金を注ぐ、抜本的なリストラを行う、など、財政面を中心とした3~5年程度の改善計画を具体的に示す必要があります。特に、債権者から事業再生への同意を得るため、いつまでにいくら返済できるのかを明示した事業再生計画書を作成しなければなりません。

事業再生計画書は、債務免除を受けるための事業再生手続きだけでなく、スポンサー確保のためのプレゼン資料としても有効です。赤字企業や債務超過企業でも、事業再生計画書の内容によっては新たに融資が受けられるケースがあるので、綿密なものを作成しておくとよいでしょう。

4.資金の確保

作成した事業再生計画書をもとに、計画の実行に必要な資金の確保を目指し、金融機関に対して新たな融資の交渉を行います。また、少しでも現金の流出を防ぐため、事業の維持に際して影響の少ない取引先や、支払い金額の大きい取引先などに支払い期限の延長をしてもらいます。

しかし、通常は新規の融資に応じてくれる金融機関は多くはありません。そこで、前述の事業再生計画書をもとに事業再生のスポンサーとなる企業を獲得する必要があります。事業を再生し継続していくためには、資金の確保と共に、債権者や金融機関からの信用の回復も欠かせません。新たなスポンサーが見つかれば、安定した事業再生が可能になるため、信用力も補完することができるでしょう。

5.手続きの実行

私的再生を選択した場合は、中小企業再生支援協議会や主要債権者(メインバンクなど)へ相談に行き、彼らの支援のもと、再生計画案の作成を行うことになります。債権者集会を開き、事業再生に至った経緯を説明し、債権者全員から再生計画への承認を得る必要があります。

法的再生を選択した場合は、裁判所への申し立てや再生計画の認可を得ることなどが必要になります。また、私的再生と同様に、債権者らの承認を得なければなりません。

どちらの方法でも、承認を得た再生計画案に基づき再生手続きを実行し、計画どおり債権者に弁済が行われると、事業再生は完了となります。 

私的再生のメリット

次に、法的再生ではなく私的再生を選択した場合の3つのメリットを紹介します。

1.社会的信用失墜のリスク回避

法的再生を申請した場合には、経営破綻が公になり、世間から倒産企業として認知されてしまいます。その結果取引債権者らの信用不安を招き、再生が困難になることもあります。また、顧客離れや取引停止を招く可能性も大いにあり、さらに人材の流出などにより事業価値が毀損されることは想像に難くありません。

しかし私的再生の場合は、原則として債権者との話し合いにより非公開で手続きが進行するため、社会的信用を維持したまま、再生を進めることができます。

2.迅速かつ柔軟な手続き

法的再生の場合は、裁判所の監督下で行われるため、法律に定められた手続きをスケジュールどおりに行わなければなりません。この場合、全ての債権者に対して平等に手続きを進めるため、どうしても時間がかかります。しかし私的再生の場合は、債権者と債務者の合意があれば、手続きの進行方法や内容については自由に進めることができるので、迅速かつ柔軟に手続きを進められるのです。特に、債権者の数が少ない場合や、債権者の数が多くても協力を得られる可能性が高い場合には、法的再生に比べて短期間での再建が可能となります。

3.コスト削減

法的再生の手続きを申立てする際には裁判所に多額の予納金を納めなければなりません。法的再生のなかで代表的な民事再生でも、最低数百万円の予納金が必要とされています。私的再生ではこのような予納金が必要ないので、費用をかけずに再生手続きを進めることができるのは大きなメリットといえるでしょう。

私的再生のデメリット

一方で、私的再生には以下のような2つのデメリットがあります。

1.透明性・公平性の欠如

法的再生の場合は手続きのスケジュールが決められており、どの債権者も平等に扱うことになっていますが、私的再生は裁判所の関与がなく、手続きも任意で進められるため、債権者間の平等や公平性を保つのが難しい傾向にあります。大口でない債権者に不公平感を抱かれ、手続きに同意してくれない可能性もあるのです。

2.再生計画頓挫の可能性

私的再生を進めるには、債権者全員の合意を得なければなりませんが、債権者が多い場合は話し合いに時間がかかったり難航したりする可能性があります。最終的に全員の合意が得られなければ、せっかく再生計画を立てても実行に移せないかもしれません。法的再生と比べると、実現のハードルが高いことを覚えておくとよいでしょう。

どちらを選択するべきか

事業再生を検討する際に、法的再生と私的再生のどちらを利用するのかは、さまざまな視点から総合的に勘案すべきです。しかし、法的再生には社会的イメージの低下という大きなデメリットがあるため、まずは私的再生を検討し、法的再生は最終的な手段であると考えることをおすすめします。

私的再生は法的再生に比べ短期間で整理が可能となる一方、債権者にとっては手続きの不透明性が懸念されるため、私的再生において債権放棄を実施し事業を継続させた方が多くの回収を見込めるというアピールをすることが肝要です。逆にいえば、この条件が満たせないのであれば、債権者の合意が得られない可能性が高く、法的再生を選択するしかありません。

また、私的再生は債権者全員の合意を前提とするため、債権者が多く協力が得にくいケースや、強硬な債権者がいて債権者間の公平が図られないことが予想されるケースもあります。そのような場合にも法的再生を選択するのがよいでしょう。

まとめ

本記事では事業再生のなかでも、特に私的再生について解説してきました。会社が経営破綻した場合でも、会社を消滅させることなく再建する手段について理解が深まれば幸いです。万が一経営破綻に陥った場合は、一日も早く最善の選択をするために、早めに専門家に相談することをおすすめします。

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