コラム

資金調達方法の一つ「第三者割当増資」を、初心者向けにわかりやすく解説!

「ファンドや大手企業が第三者割当増資を引き受ける」といったニュースを目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。本記事では第三者割当増資とは何か、M&Aとの関係はどのようなものかについて解説します。

第三者割当増資とは

第三者割当増資とは会社が用いる資金調達方法の一つで、会社が新しく株式を発行して、その割り当てを引き受ける(買い取る)権利を特定の第三者(法人と個人の両方がありえます)に対して与えることです。

上場企業が資金調達を行いたいときには、発行する株式を誰にでも購入してもらうことができるため、不特定多数の投資家に対し新株を発行する「公募増資」が実施されます。

これに対して非上場の会社では、基本的に株式が非公開となっているため、資金を調達するときには特定の第三者を選んで投資してもらうことになります。このときに採用される方法が、第三者割当増資です。業務提携先、取引先、取引金融機関、自社役員など関わりの深い相手(縁故者)に割り当てることから「縁故募集」とも呼ばれています。

上場会社での第三者割当増資

前述のとおり第三者割当増資は、主に上場していない非公開会社が活用する資金調達方法ですが、上場会社で利用されることもあります。上場会社では主に、資本提携や事業支援・会社再建のために資金調達を必要とする場合に行われます。

また敵対的M&Aの対象とされた会社が、買収会社の持株比率を低下させるべく、防衛策の一環としてホワイト・ナイト(対象会社にとって友好的なパートナー)に対して行う場合もあります。

※敵対的M&Aへの防衛策に興味のある方は、こちらのコラムをご覧ください。

明日は我が身!もし敵対的買収を仕掛けられたら?買収防衛策について解説

ただし第三者割当増資は、既存株主にとっては持株比率が低下するうえ、市場価格より低い価格で新株発行が実施された場合は不利益を被るおそれがあります。新株を第三者割当増資の引受先に有利な金額で発行する場合には、株主総会での特別決議が必要です。

M&Aの手法としての第三者割当増資

第三者割当増資は、新株の引受人が、発行会社の株式の一定割合を取得することが可能となるため、M&Aの手法として活用されることもあります。その際には、譲渡企業が新株を発行し、譲受企業がその株式を引き受けるかたちで行われます。

一般的に、株式の持ち株比率が半分を超えると、取締役の選任や解任、剰余金の処分や配当等の事項の決定が可能となり、また3分の2を超えると、定款の変更や会社のM&A、解散といった重要な決定を行うことが可能となります。つまり、第三者割当増資によって譲受企業が過半数または3分の2以上の株式を保有すると、実質的に譲渡企業の経営権を取得できるため、M&Aの成約(経営権の移動)とみなされるのです。

※M&Aについて詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

M&Aとは?初心者必見!手法や流れをわかりやすく解説

<株式譲渡との違い>

M&Aにおける第三者割当増資は、株式を取得することで経営権を獲得するという点で見れば株式譲渡に似ていますが、株式譲渡では譲受企業が一部または全部の株式を、譲渡企業の「株主」から買い取ります。つまり、経営者が筆頭株主でもある中小企業の場合は、一定数以上の株式を手放すと会社の経営権も失うことになります。

一方、第三者割当増資では、譲受企業は株主ではなく「会社」から株式を買い取ります。経営者の持株比率は下がりますが、大株主のままでいられるため、引き続き経営に携わることができます。

株式譲渡について詳しく知りたい方は「事業譲渡と何が違う?譲渡制限とは?中小企業でよく行われる株式譲渡について」もご覧ください。

<買収と同時に増資ができる>

また、M&A における買収時に譲渡企業の運転資金が不足しているようであれば、資金を増やす目的で第三者割当増資を行うという方法もあります。中小企業のなかには「資金調達をしたいが、すでに金融機関から多額の融資を受けていて、これ以上借入金を増やせない、増やしたくない」という企業が数多く存在しますが、この方法ならそのような会社の財務基盤を強化できるため、売り手側と買い手側がWin-Winの関係を築くことができるのです。増資によって経営を安定化させることができれば、M&Aを通じて得られるシナジー効果がより発揮されやすくなるでしょう。

※シナジーについては、詳しくはこちらのコラムをご覧ください。

初心者必見!M&Aの最大の目的「シナジー」とは

関係性強化のための第三者割当増資

第三者割当増資は引受先との関係強化にもつながります。保有することになる株式の割合が多いほど、その会社に対する権限が強くなるので、引受企業に経営に参画してもらうケースもあります。取引先や金融機関など以前から良好な関係を築いていた相手が株主になれば、お互いが利益の向上を目指す仲間であるという認識が生まれ、事業面での安定した関係性構築が期待できます。

また、第三者割当増資は引受先と発行会社における資本業務提携を目的として行われることもあります。資本業務提携を行うことで、契約を結んだ企業への経営の参画や、財務面での支援など、業務提携単独での契約よりも強力な関係構築が期待できるためです。

第三者割当増資の留意点

メリットの多い第三者割当増資ですが、注意しなければならない点もあります。それは既存株主への影響です。

第三者割当増資により新株式を発行すると、発行済株式全体の数が増えます。これにより、以前から支配権を持っていた既存株主の持株比率が低下し、行使できる権限が少なくなる可能性があります。また、新株が有利発行(通常より低い金額での発行)されれば、一株当たりの価値が下がってしまいます。これらの現象は「株式の希薄化」と呼ばれ、既存株主の反発を受けるおそれがあります。

なお、有利発行の際は株主総会での特別決議が必要となります。株主総会で、既存の株主に対し、第三者割当増資を行う必要性やメリットについて、十分な説明を行うことが重要です。

まとめ

第三者割当増資は、会社が発行した新株を特定の第三者に引き受けてもらうことで資金を調達する方法です。「特定の第三者」となるのは、信頼があり良好な関係が築けている相手であるため、リスクが低い増資方法といえます。

また、第三者割当増資は資金調達だけでなく、M&Aや取引先との関係性強化など、さまざまな目的に有効利用されています。一方で、既存株主への影響など注意すべきポイントもあるので、第三者割当増資を活用する際には、発行済株式とのバランスを考慮しつつ慎重に進めましょう。

弊社ポラリス・アドバイザーズには、さまざまな事例の取り扱い経験があるプロが在籍しています。第三者割当増資を含めたM&Aについて興味をお持ちの方はお気軽にお問い合わせください。

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