コラム

TOBとは?TOBの目的や実際の事例を初心者向けに解説

企業買収のニュースとともに、「TOBを仕掛けた」「TOBに応じた」などのワードを耳にすることがあります。ここ数年の間だけでも、コロワイドによる大戸屋への敵対的TOBや、NTTによるNTTドコモの完全子会社化を目的としたTOB、伊藤忠商事によるファミリーマートのTOBおよび上場廃止、ニトリとDCMによる島忠争奪戦など、TOBに関する話題が世間を大きく賑わせました。TOBとはいったいどのような買収手段なのでしょうか。

TOBとは

TOB(ティーオービー)とは「Take Over Bid」の略で、主に買収したい企業の株式を株式取引市場外で買い集める行為です。あらかじめ買い付ける「期間・株数・価格」を公告し、不特定多数の株主に対し保有する株式を売ってくれるよう働きかけ、証券取引所を通さずにそれらの株式を買い付けます。日本語では「株式公開買付け」といいます。

※買収については、こちらのコラムをご一読ください。

今さら聞けない!そもそも買収とは?種類についてわかりやすく解説

一定以上の株式が買付けされると株価へ影響を与えることになり、そうしたことを水面下で実施すると既存株主が不利益を被る可能性があるため、大量に株式買い付けを行うときは必ずTOBを利用しなければなりません。また、買付けの株数によっては、対象となった企業が上場基準を満たすことができなくなり、上場廃止になる場合もあります。

TOBの目的

TOBは主に企業の買収や子会社化など、対象企業の経営権の取得を目的に実施されます。企業の株式を3分の1保有することで株主総会における特別決議の拒否権を、過半数保有で経営権を(相手企業は子会社となります)、さらに3分の2を超える保有で重要事項の決定権(特別決議)を得ることができます。

また、TOBにより自社株を買い戻すケースもあります。その目的は、親会社からの独立や、他社からの買収防止、上場を取りやめる、事業承継を行うため、など多岐にわたります。このように経営陣が自社株を買い戻す行為はMBO(マネジメント・バイアウト)と呼ばれます。

※マネジメント・バイアウトに興味のある方は、こちらのコラムをご覧ください。

マネジメント・バイアウトとは?目的や仕組み、買い取り価格の決め方について解説

TOBの買い付け株数

TOBでの株式の目標取得数は、目的にもよりますが最低でも3分の1以上の株式を買い集めなければ意味がありません。そこで買付け数の下限を決めていることも多く、買付け下限に満たなかった場合にはTOBは不成立となり、応募された株式の買い付けを一切行わないことも可能です。途中で達成の見込みがないと判断し、企業がTOBの中止を発表するケースもあります。また、買付け上限を超えた応募があった場合は抽選となったり、一部のみ買付けに応じたりします。

TOBの種類

TOBには「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2種類があります。友好的TOBとは、株式の買収について対象企業の経営陣から了承を得たうえで行うTOBのことです。日本でM&Aの手段として行われるTOBは、大半が友好的TOBとなります。

これに対して敵対的TOBとは、敵対的買収の手法の一つで、対象企業の経営権を握ることを目的として、対象企業から事前に同意を得たり、通知をしたりせずに仕掛けるTOBを指します。友好的TOBと比べると、敵対的TOBの方が株式の買い付け価格は高くなりやすい傾向にあります。

敵対的TOBの最近の動向

敵対的TOBを含む敵対的買収は、ライバル企業などを買収し好き勝手に経営を行うといういわゆる「乗っ取り」のイメージがあるかもしれません。しかし近年では、健全な企業運営を行うためのガバナンスが重視され、半ば強引に経営権を取得してでも、旧態依然とした経営体制を変革させたり、経営者の独善的な行動や不正を未然に防いだりと、企業の成長を促進させていくことがよしとされる風潮になっています。よって、敵対的買収は以前ほど敬遠されなくなり、件数も増加の傾向にあります。

とはいっても、自分の会社が敵対的TOBを仕掛けられてはたまったものではありません。敵対的買収への対抗策はいくつかあるので、「明日は我が身!もし敵対的買収を仕掛けられたら?買収防衛策について解説」のコラムを併せてご覧ください。

TOBの事例

前述したように、敵対的TOBは元々日本ではあまり活発ではなかったのですが、2020年頃から流れが変わってきています。ここでは敵対的TOBを含む、国内におけるTOBの成立事例・不成立事例について紹介します。

<成立事例>

・NTTによるNTTドコモの完全子会社化

2020年9月、「NTT」は「NTTドコモ」の完全子会社化を目的としたTOBの実施を発表し、11月に成立しました。NTTドコモはTOBに賛同し、12月に上場廃止となりました。買付金額は4.2兆円を超え、国内企業へのTOBとしては過去最大の金額です。移動体通信事業者間の競争が激化するなか、NTTには、次世代通信規格「5G」への対応や料金・サービスの競争力強化のため、経営の意思決定スピードを速めていく狙いがありました。

・伊藤忠商事によるファミリーマートの完全子会社化

2020年7月、伊藤忠商事は子会社であるファミリーマートに対し、株式の非公開化を目的に友好的TOBを実施し、8月に成立しました。今後のコンビニ業界における激しい競争に勝ち残っていけるよう、伊藤忠商事は迅速な意思決定が重要と考え、完全子会社化に踏み切ったようです。なお、ファミリーマートは11月に上場廃止となりました。

・ZホールディングスによるZOZOへの友好的TOB

2019年11月、Zホールディングス(旧ヤフー)は、EC事業強化のためファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOをTOBで子会社化しました。このTOBでは、ZOZOの前社長前澤氏がZOZOTOWNの利用者数のさらなる拡大のために企業とタッグを組むことを決断し、前澤氏の方からZホールディングス側へ買収を打診したことが明かされています。Zホールディングス側も、傘下のヤフーや親会社であるソフトバンクとのシナジーを見込んで合意に至りました。

・伊藤忠商事によるデサントへの敵対的TOB

2019年1月、スポーツ用品大手「デサント」の株を30%以上保有する筆頭株主であった伊藤忠商事は、TOBにより40%に保有割合を高め、事実上デサントの支配権を握ることとなりました。これは大手国内企業同士の敵対的TOBとしては初の成功事例となります。買収直後に韓国での半日不買運動やコロナウィルスの影響を受け、デサントは急激な業績悪化となりましたが、現在では黒字に回復しています。

・コロワイドによる大戸屋への敵対的TOB

2020年7月、外食産業大手の「コロワイド」が定食チェーンの「大戸屋ホールディングス」に敵対的TOBを仕掛け、9月に成立しました。コロワイドは2019年10月に大戸屋の創業一族から19%の株式を譲り受けて筆頭株主となり、TOBで46.77%まで保有割合を高め、大戸屋の経営権を握ることとなりました。コロワイドは当初友好的M&Aを打診しましたが、大戸屋は真っ向から対立し、結果的に敵対的TOBの実施となった経緯があります。伊藤忠商事のデサントへのTOBに引き続き、日本では極めて珍しい大企業同士の敵対的TOBの成功例となりました。

<不成立事例>

・廣済堂を巡るTOB

2019年1月、印刷業や葬祭業を営む廣済堂は、米投資ファンドのベインキャピタルの支援を受け、自社株を買い戻すためTOBの実施を発表しました。しかし、そのTOB価格が安すぎたことで複数の大株主が反対し、その最中に南青山不動産が対抗TOBを発表し、混乱を極めます。そして結果的に、どちらのTOBも不成立に終わりました。株主に対し配慮が足りなかったこと、そして廣済堂の子会社で葬儀場を運営する東京博善の企業価値が高すぎたことが原因と分析されています。

・ユニゾホールディングスを巡るTOB

2019年7月、ホテル運営やオフィス賃貸事業などを行うユニゾホールディングスに対し、当時の筆頭株主であった旅行大手エイチ・アイ・エスが敵対的TOBを仕掛けました。ユニゾはこれに反対表明し、ソフトバンクグループ傘下の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループをホワイトナイトとして擁します。それを受けてエイチ・アイ・エスはTOBを断念しますが、その後ユニゾはフォートレスをお払い箱にし、より高値のTOBを提案してきた米不動産ファンドのブラックストーン・グループとの交渉に入ります。しかし、最終的にユニゾは、米投資ファンドのチトセア投資と組んで、日本では前例のないEBO(従業員による買収)を実施したのです。結果的に、ユニゾは一連の騒動で株価を3倍にまで上昇させ、上場廃止となり、半年を超える乱戦に決着をつけました。

・ソレキアを巡るTOB

2017年、電子部品商社のソレキアは、実業家の佐々木ベジ氏から敵対的TOBを仕掛けられました。ソレキアは反発し、取引関係にあった富士通がホワイトナイトとして友好的TOBをもって対抗することとなります。佐々木氏と富士通は互いにTOB価格を次々と引き上げ、最終的に富士通があまりの高値化についていくことができずTOBを断念しました。一方、佐々木氏は豊富な財力を活かし、目標の買取株式数を達成、33.7%の株式を保有するに至りました。

まとめ

本記事ではTOBの目的や種類、実際のTOB事例などについて紹介しました。TOBについて、少し身近に感じていただけたのではないでしょうか。

弊社ポラリス・アドバイザーズには、TOBをはじめとした、さまざまな事例に詳しいプロフェッショナルが在籍しています。TOBに限らず、M&Aについてご相談がある方はお気軽にご相談ください。

※M&Aについて知りたい方は、こちらのコラムもおすすめです。

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