コラム

明日は我が身!もし敵対的買収を仕掛けられたら?買収防衛策について解説

以前は日本でほとんど行われていなかった敵対的買収ですが、昨今は企業の健全な経営体制を重視する流れから、半ば強引に経営権を取得してでも企業の経営体制を変革させるなど、少しずつ敵対的買収が増えてきています。ある日突然、敵対的買収の対象になる可能性はどの会社にもあり、まったく関係のない話ではありません。本記事では、敵対的買収に備えるための買収防衛策について、初心者の方にもわかりやすく解説します。

※買収については、こちらのコラムをご一読ください。

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敵対的買収とは

買収には「敵対的買収」と「友好的買収」の2種類があり、通常ただ「買収」という場合は、事前に話し合いを重ね契約書を交わして進める友好的買収を意味します。一方、対象企業の支配を目的として、事前に対象企業の経営陣や株主の合意を得ることなくTOBなどを仕掛けることを敵対的買収といいます。

対象企業が上場会社の場合は、株式が大量に買付けされると株価へ影響を与えることになり、水面下で実施すると既存株主が不利益を被るおそれがあるため、敵対的買収を行う側は必ずTOBを利用しなければなりません。

※TOBについては、こちらのコラムをご覧ください。

TOBとは?TOBの目的や実際の事例を初心者向けに解説

敵対的買収への対抗策

しかし敵対的買収を仕掛けられた企業も、ただ黙って買収されるのを待つばかりではありません。以下のような買収防衛策をもって対抗します。

1.ホワイトナイト

比較的よく活用されているのは、友好的関係にある第三者(ホワイトナイト)に、自社を買収もしくは合併してもらうことで敵対企業からの買収を防ぐ方法です。呼び方は「白馬の騎士」に由来しており、敵対的TOBであることが判明した後でも実施できるのが特徴です。

代表的なのは、敵対的TOBを仕掛けてきた会社よりも高値の買い付け設定でTOBを実施してもらう方法で、カウンターTOBとも呼ばれています。いくら友好的企業であっても買収されることには変わりないのですが、敵対企業に買収されることと天秤にかければ、背に腹は代えられない場合もあるでしょう。

また、第三者割当増資によりホワイトナイトに付与するための新株を発行し、結果的に敵対企業の株式保有率を下げ、目標比率に届かないようにさせる方法もあります。その際は他の既存株主の希薄化へ配慮することが重要です。

2.ポイズンピル

ポイズンピルとは、既存株主に向けて新株予約権を安価で大量に発行することで敵対企業の株式保有割合を下げ、買収コストを高めて諦めさせる方法です。具体的には、敵対企業に一定割合以上の株式を買収されたときに権利行使が可能になるという条件付きの新株予約権を、事前に既存株主に付与しておきます。もし敵対的買収が発生した場合、その新株予約権を付与された株主は安値で株式を購入することができるので、当然大量の株式購入に至ります。すると相対的に敵対企業の持株比率は下がり、あらかじめ想定していたより多くの株式購入コストがかかることになります。

あらかじめ設定しておくことで買収の抑止力として活用されるケースが多いですが、実際に敵対的TOBを仕掛けられた後に新株予約権を発行しポイズンピルとすることも可能です。

ポイズンピルは「毒薬」の名のとおり強力な買収防衛策となり得ますが、発行済み株式数が増加すると一株あたりの価値が下がってしまうので、別の既存株主から反感を買うおそれがあります。既存株主への配慮を怠ると、株主から新株発行の差し止めを請求されたり、敵対企業の方を支持されたりしてしまう可能性もあるので注意が必要です。

3.クラウンジュエル

クラウンジュエルは敵対的買収を仕掛けてきた会社にとって価値のある事業や資産、子会社などを第三者に譲渡することで自社の値打ちを下げ、相手の買収意欲を削ごうとする防衛策です。王冠(クラウン)から宝石(ジュエル)を取り外して魅力を低下させるイメージに由来します。

※事業譲渡について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違い、メリット・デメリットを解説

事業や子会社の譲渡は株主総会での特別決議が必要ですが、資産の譲渡に関しては取締役会だけで決定することが可能です。クラウンジュエルは第三者の支援を必要とせず自社のみで行える方法ですが、取締役員たちが会社の価値を自ら毀損するということは、善管注意義務違反とみなされ、株主から責任を追及される可能性があります。敵対的買収を退けることができたとしても、将来的なリスクが大きいため、他の手段が講じられない場合の最終手段として覚えておくのがよいでしょう。

4.パックマンディフェンス

パックマンディフェスは、買収を仕掛けてきた企業に対し、逆にTOBを仕掛ける行為です。この買収防衛策の名は日本発のテレビゲーム「パックマン」に由来します。常に敵に追いかけられているパックマンが、特定のエサを食べることで一時的に敵を追いかけ逆襲することができるようになるという場面になぞらえて名づけられたといわれています。

企業同士がお互いに株式を保有している状態で、相手の株式の4分の1を取得すれば、自社に関する議決権は失われるという決まりがあるため、敵対的買収を仕掛けられてから、その敵対企業の株式を取得するのです。通常のように株式の過半数を取得する必要はありません。しかし、相当の金額をかけて敵対的TOBを仕掛けてくるほどの相手なので、その株価が低いとは考えられず、防衛側も相応の資金が必要になります。

お互いに資金を削るだけで何も残らないため、実際にパックマンディフェスが行われる前に和解となるケースが多いようです。1980年代のアメリカでは盛んに行われていましたが、現在では世界的に見てもほとんど実施されることはありません。

5.ゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートは、自社の役員の退職金を高額に設定することで買収コストを高め、結果的に敵対企業の買収意欲を削ぐ方法です。通常は買収が行われると経営陣は解任が求められるため、買収を行った企業は多額の退職金を支払わなければなりません。

他の買収防衛策と比べ、株主を巻き込むリスクがないため有効な手段といえますが、会社のことを考えずに役員だけが助かろうとしているように見えなくもないため、株主および世間からの信頼度が悪化するおそれがあります。ゴールデンパラシュートを設定するには株主総会での承認が必要となるので、現経営陣による経営体制の継続の優位性を納得してもらうことが重要となるでしょう。

非上場会社は敵対的買収とは無縁なのか

そもそも上場会社でなければ、敵対的買収を仕掛けられることはないのでしょうか。非上場会社の多くは、非公開会社(株式譲渡制限会社)といって、株式を譲渡するのに会社の取締役会などの承認が必要となります。よって、敵対的買収を行うことは不可能なように見えます。しかし、数少ない事例ですが、非公開会社が敵対的買収を仕掛けられたケースがあるのです。

<コクヨが仕掛けた、ぺんてるの敵対的買収>

2019年5月、文房具業界第1位のコクヨは、業界第4位のぺんてるの筆頭株主であるファンド(ぺんてるの株式の約38%を保有)に出資することで、間接的にぺんてるの大株主になることに成功しました。当初ぺんてるはこれに反発する姿勢を見せましたが、その後コクヨがぺんてるの株を直接保有することを容認し、業務提携に向けて動き出しました。しかし、ぺんてるは水面下で業界第2位のプラスと資本提携の協議を進め、それがコクヨの知るところとなり、両社の関係は悪化します。

2019年11月、ついにコクヨがぺんてる子会社化へ向けて株式の買い付けを行うと発表しました。ぺんてるはこれに真っ向から反対を表明し、ぺんてるの株主に対して、ホワイトナイトとして同じく株式買い付けを発表したプラスに株式を売却するよう訴えました。

プラスが買い付け価格を1株3,500円としたのに対し、コクヨは最終的に1株4,200円まで引き上げたにもかかわらず、ぺんてるの株主の3分の1がプラスに株式を売却しました。結果として、コクヨは元々の保有株式と合わせて約46%しか取得できず、ぺんてるは無事に子会社化から逃れることができました。

結局コクヨによる買収は失敗に終わったものの、株式譲渡制限のある非上場会社であっても敵対的買収の危機にさらされる懸念があることが世間的に知られることとなりました。

まとめ

今回は敵対的買収を仕掛けられた場合の防衛策について紹介しました。M&Aが盛んに行われている現状では、自社がいつ敵対的買収の当事者となるかわかりません。事前に敵対的買収に対する防衛策を導入するかも含め、知識を蓄え検討しておくとよいでしょう。

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