コラム

チェンジオブコントロール条項とは?M&Aとの関わりについて

チェンジオブコントロール条項という言葉を聞いたことはあるでしょうか。さまざまな取引における契約書で見られる規定であり、M&Aにも深く関わりのあるものです。本記事ではM&Aにおけるチェンジオブコントロール条項について、対応やメリット・デメリットをわかりやすく解説していきます。

チェンジオブコントロール条項とは

チェンジオブコントロール(Change Of Control)条項とは、会社の経営権に変更が生じる場合の対応について言及した、一般の契約書に記載される規定のことです。「COC条項」と略されることが多く、「資本拘束条項」とも呼ばれます。その内容は、たとえば、「経営権の移転時には通知が必要である」「経営権や資本構成の変更を理由に契約自体を解除できる」といったものです。

チェンジオブコントロール条項の具体例

チェンジオブコントロール条項については説明のみを聞いても、あまりピンと来ないかもしれません。実際の文例を見てみましょう。チェンジオブコントロール条項は、以下のような文例で「取引基本契約書」などに規定されています。

  • 「第○条(通知義務) 甲が合併、株式交換、株式移転または甲の株主が全決議権の2分の1を超えて変動した場合など、甲の支配権に変動があるときは、事前に乙に対してその旨を書面で通知しなければならない。」
  • 「第○条(通知義務及び解除) 甲が合併、株式交換、株式移転または甲の株主が全決議権の2分の1を超えて変動した場合など、甲の支配権に変動があるときは、事前に乙に対してその旨を書面で通知するものとし、乙は本契約を解除できる。」
  • 「第○条(解除) 甲が合併、株式交換若しくは株式移転を行った場合又は甲の株主が全議決権の3分の1を超えて変動した場合等、甲の支配権に実質的な変動があった場合には、乙は本契約を解除することができる。」
  • 「第○条(解除) 甲および乙は、相手方が次の各号の事由に該当するときは、何ら催告をすることなく本契約の全部または一部を解除することができる。
    (1)合併などの組織変更や事業譲渡、株式の過半数の譲渡により、経営環境に著しい変化が生じた場合」

会社の経営陣に変更があった場合、上記のように通知義務のみを定めたものや、契約の解除について定めたもの、もしくはその両方を定めたものなどがあります。また、取引関係にある甲乙双方を契約解除の対象とする場合や、甲のみを対象とする場合、子会社やグループ会社も含める場合などさまざまなパターンがあります。いずれにしても、取引相手がこうした条件に該当した場合に、その旨を通知する義務や、契約の全部または一部を解除できることを示しています。

M&Aとの関わり

M&Aにおいては、売り手企業と取引先との契約書の中にチェンジオブコントロール条項があると、取引先から取引の契約を解除されてしまう可能性があります。その取引先との取引継続が売り手企業の収益に大きな影響を与えている場合、買い手側としては、せっかくM&Aによって会社や事業を得たとしても事業継続が困難になってしまうかもしれません。

M&Aでは株式譲渡や株式交換、会社分割など多くのパターンで経営権や資本構成の変更を伴うため、売り手企業の重要な取引先との契約書にチェンジオブコントロール条項がないかをあらかじめ確認しておく必要があります。このことについては次の項目で詳しく解説します。

チェンジオブコントロール条項への対応

M&Aのプロセスでは、デューディリジェンスの際に、売り手側の仕入先や販売先、重要な取引相手との契約にチェンジオブコントロール条項がないかを確認します。M&Aにおけるデューディリジェンスとは、主に売り手企業の詳細な調査を行う重要なプロセスです。デューディリジェンスについては「M&Aの最大の難関、デューディリジェンスとは?」で解説しています。

該当する契約があった場合は、取引先に対し「契約継続の同意書を取得する」といった内容を、クロージングの前提条件に盛り込み、取引先との契約の解除などのリスクを管理することになります。クロージングについては「M&Aにおけるクロージングとは?前提条件や必要書類、期間について初心者向けに解説」をご覧ください。

しかし実際には、同意書取得の負担や、売り手企業との取引の実情などを鑑み、取引先への通知のみで、あえて承諾を取らないケースも多くあります。この手続きを省略するかどうかは、該当する契約の規模や取引先の重要度などに応じて異なるため、判断が難しい場合は専門家であるM&Aアドバイザーに相談することをおすすめします。

チェンジオブコントロール条項のメリット

さて、ここまでの説明で、なぜチェンジオブコントロール条項を契約書に設けるのかという疑問が湧く方もいるかもしれません。元々この条項は、これから契約関係を結ぶ相手の不安要素を取り除く目的で設定されています。取引相手の経営陣がまるっきり変わってしまえば、何らかの不都合が生じる懸念があるので、そこの対応を保証することで安心してもらうという利点があるのです。

一方、売り手企業にも、チェンジオブコントロール条項を設けるメリットはあります。

<技術流出の防止>

チェンジオブコントロール条項により会社の機密情報や技術の流出を防ぐことができます。特に、買い手となる企業と、売り手企業の取引先が競合であるような場合は、取引先が不利益を被るリスクがあります。たとえば技術を提供している企業の経営権がM&Aで第三者に移行した際に、あらかじめライセンス契約書にチェンジオブコントロール条項が盛り込まれていれば、ライセンス供与元は契約を解除することによって第三者への技術流出を防ぐことができるのです。

<買収防衛策>

チェンジオブコントロール条項は敵対的買収の防衛策としても効果的です。会社の重要な取引先との契約にチェンジオブコントロール条項が定められていると、買い手が買収を躊躇する可能性があるからです。特に、特定の契約による営業利益が企業価値の中で大きな割合を占めるような企業の場合、チェンジオブコントロール条項の発動によりその契約が解除となれば買収の目的は失われます。実際に、敵対的買収を仕掛けられてから、取引先との契約にチェンジオブコントロール条項を設定することで自社の魅力を半減させ、敵対的買収を退けた例もあります。

※敵対的買収について興味のある方は、こちらのコラムをご覧ください。

明日は我が身!もし敵対的買収を仕掛けられたら?買収防衛策について解説

チェンジオブコントロール条項のデメリット

売り手企業にとっての、チェンジオブコントロール条項のM&Aにおけるデメリットを強いて挙げるなら、買い手企業が見つかりにくくなる可能性があるという点があります。上述したメリットの裏返しになりますが、売り手企業の重要な取引先にチェンジオブコントロール条項があることで、いざM&Aを行いたいと思っても買い手が見つからないケースがあるかもしれません。

しかし、取引先との契約書にチェンジオブコントロール条項があるからといって、必ずしもM&Aの妨げになるとは限りません。「対象事業の継続やさらなる発展のためにM&Aが必要であり、買い手が信頼できる企業である」旨を正しく伝えれば、納得してくれる可能性が高まるでしょう。むしろM&Aにより、売り手企業が業績を伸ばすことができれば、取引先にとってもさまざまなメリットがあると言えます。

まとめ

チェンジオブコントロール条項は、経営権が移転した際に通知義務の発生や契約解除などが求められる契約書の規定です。M&Aの交渉が進んでいくなかで、取引先の企業がチェンジオブコントロール条項によって契約解除を示唆し、M&A自体が破談になるケースもあるため、デューディリジェンスでの確認が必要です。

しかし実際の取引先への対応の要否は、取引の重要度によるところが大きいので、M&Aアドバイザーに相談し、判断を仰ぐとよいでしょう。弊社ポラリス・アドバイザーズでは、経験豊富なプロがお手伝いしますので、お気軽にお問い合わせください。

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